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テレビ放送講座 平成6年度テキスト「第5回 信仰に息づく食の文化 〜神仏との交わり、人との交わり〜」


 富山県民生涯学習カレッジ本部

TOP 第5回 信仰に息づく食の文化 〜神仏との交わり、人との交わり〜 塩原 紘栄

はじめに
 富山は背後を山に囲まれ、広い平野を経て前方は海に臨む。この単純でまとまりのある地形は人々に「まわりと同じが良い」と考えさせてきた。家には仏壇と神棚を安置しお寺やお宮さんを大切にするなど信仰心が非常に篤い。そのほかにも石仏など人々の信仰の対象になっているものはたくさんある。先祖を敬い、仏と交わり、神に祈って、信仰は生活の中に深く根をおろしている。
 豊作豊漁を願う、神仏に奉げる、直会(なおらい)、斎(とき)など信仰には食物が介在することが多い。これらは先祖から伝えられ、風土に根ざした食の文化として受けつがれてきている。ここでは信仰の中で受けつがれている食物を中心に富山の人々の生活をさぐっていく。
精進
 富山の家には仏壇が安置されている。押し入れに入るような簡素なものもあるが、扉を開くと2間の幅にもなる大きなものもあり、立派で大きな仏壇を備えることはその家の誇りともなっている。
 毎朝ぶっけはん(仏供笥さま)とよぶ真鍮製の器に、炊きたての白飯を盛り、仏壇にお供えし、お経をあげる。この飯をおぼくさん(御仏供飯)という。毎日のお参りは仏や仏になった先祖と語りあい、今日の日の無事であることを感謝する時である。白米が貴重であった頃、仏さんからのお下がりのおぼくさんを子供たちは楽しみにしたものである。
 先祖の命日(死亡した日、月忌)には、毎月、手つぎのお寺の僧がお経をあげにくる。普段よりもおぼくさんを高々と盛り、お東(浄土真宗大谷派)では蓮の実を形どった円筒状に、お西(同本願寺派)では蓮の蕾を形どった円錘状にする。さらに季節の食べ物や故人の好物なども供える。祥月命日は亡くなった月日(年忌)をさす。
 命日は精進日、お斎(とき)の日とも称する。精進とは身を清め、心を慎むことの意であり、この日は子供たちはけんかなどしないように、大人も心安らかに過ごすようにつとめた。食べ物は殺生しないという意味で動物性の物、なまぐさ物は一切さけて、いわゆる精進をし、煮干しの入らない味噌汁と漬け物、野菜の煮物、よごしなどを食べる。魚食を禁ずる精進日は各家に毎月何日かはあるが強制されて行うものでなく、育ち盛りの子供や労働をする人には免除するとか、朝食のみ精進するとか、やはり現在生きている人の健康を配慮することもある。
 精進は食物に対する禁忌だけでなく、仏笥を洗う洗い桶、包丁、まな板、鍋、食器までなまぐさ用と区別し、神聖な気持で命日を迎え先祖に思いを駆せた。2膳入りの箸箱は、精進用となまぐさ用を使い分けるための容れ物である。
法要
 命日を大々的にした行事が年忌法要である。故人にゆかりのある人が大勢集まって、むかわり(一周忌)、3年(三回忌)、7年と回を重ねて行われる。鏡餅やおけそく(お華飾、丸い小もち)、しんかん菓子(落雁)などをお供えし、僧の読経と説教のあと斎が出される。斎とは戒律を保つ人が一定の時刻に慎んで食事をすること。転じて信徒が僧侶に供する食事、またお寺で信徒に供する食事で、仏事のあとにするものである。いわゆる僧との会食が行われる。
 襖障子が取り払われて大きな広間になり、漆塗りのお椀やお膳が出されてその家の富として披露される。お膳には季節の物や保存、貯蔵してあった野菜や、大豆加工品などを用いた郷土料理が並ぶ。例えば飯、汁、向、平、猪口、三種盛りなどの献立である。飯はみたま(御霊、白ごわい)といって、赤飯(赤強飯(こわいい)=蒸飯)の小豆のかわりに黒大豆の入ったもので、富山での仏事にはよく出される。お平(ひら)は里芋やがんもの煮〆、三種盛り(小ぶた)にはべっこうがつく。準備は何日も前から近所の人たち、親しい親戚の協力で行われる。年数が浅い間は精進料理であるが、年忌回数が進むとお祭にも負けないごちそうになる。おかがみもちの色も白のみから、五十回忌では紅白の重ねになる。お供え物はおすそわけとして近所にも配られ、故人をしのぶ。
 現在は仕出しを利用したり、専門店にも出向いたりして家族の手が省けるようになったが近所の助けあい(結(ゆい)、こうりゃく)は色々な面で残っている。
 直会(なおらい)
 職場や地域の行事が終わると、慰労の意味をこめて、それにかかわる人たちの会食がよくある。直会ともいうが、直会は神仏にまつわる行事に身を清めて奉げ物をして願いごとをし、その目的なり意義が終わると神仏と同等になったとして共に食事をすることであり、人がお互いに労をねぎらうのではない。
 奉げ物の食事で最も多いのは水、酒、もちである。富山の正月では鏡もちは学問の神、天神様に供えられ、1月25日お鏡おろしをしてぜんざいなどを作る。地鎮祭には聖なる場所を設けてお神酒と、塩、米、野菜など食糧として大切なものを供え、あとお酒を汲みかわす、いわゆる直会をする。新年の祝い肴は、するめとこんぶ、または黒豆とかずのこ、田作りである。これらは健康と子孫繁栄と豊作を願うしるしである。お雑煮は前日に神に供えたもちなどを次の朝(元日)、調理して食べた直会にはじまるという説もある。
 このように、私たちの食生活の中に神との交わり、仏、先祖との交わりを意味したことがたくさん見られたが、はじめの慰労会のように神仏がいつの間にか置き去りにされていることもある。
地蔵さん
 お寺やお宮さんを中心とする信仰の他に様々の民間信仰があり、道路際に立つ仏として地蔵がよく見られる。雨ざらしのもの、石の祠にあるもの、お堂の中のもの、それぞれに頭布やよだれかけをし、線香があげられ、お花が飾られ、それぞれにいわれや御利益があるようである。
 富山市中心の東側を流れるいたち川のいたち川橋から今木橋まで小公園として市民のいこいの場になっている所々に地蔵堂がある。安政5年(1858年)の大地震の時に常願寺川の水源である大鳶山・小鳶山が崩壊し、いたち川も氾濫し多くの人々が犠牲になった。この時夢枕に立った石仏を川底から引きあげて供養したところ、多くの病人が快方に向かい、また平穏無事な土地によみ返ったというのがここの地蔵のいわれである。今、氾濫など昔の夢のようにゆったりと流れているのは立山カルデラの砂防工事がずっと続けられているおかげである。
 7月24日の地蔵盆が近づくと臨時の床と屋根がはられ堤灯などの飾りものがされる。泉町の子安延命地蔵には紅白のお鏡もち、おけそく、まんじゅうなどが供えられ、僧の読経がある。世話方を中心に昼から夜までずっとつとめてお供え物を分けたり、持ち寄りの物を食べたりする。石倉町の延命地蔵盆にはにぎやかな盆踊りもある。
 富山は水の豊かな県、名水もたくさんある。ここの地蔵のそばにも井戸水が湧き、お参りしては霊水を持ち帰る。水の恵みに感謝すると同時に、おそろしい洪水を鎮めてくれている地蔵に感謝する姿である。
報恩講
 毎年秋の末、稲の取り入れも終わる頃門徒の家では収穫に感謝し、先祖に感謝する報恩講(ほんこさん)が手つぎのお寺の僧がきて営まれる。一年で最も大きな仏事で、嫁いだ娘は婿や子供と共に、分家した者も家族を伴って集まり、親類縁者揃って信仰について語りあう楽しみな時を過ごす。読経、説教のあとお斎が供される。精進料理ではあるが最大級のもてなしをする。
 法要の時と同じように仏間を中心に部屋は大きく開け放たれ、御膳が並ぶ。法要の時は黒漆塗りであるが、報恩講の僧の膳は朱塗りの高脚の膳で、二の膳、三の膳もつく。朱の膳には朱の椀が揃えられている。新米の自飯と、ごちそうはどれもお椀一杯に盛り付けられ、材料は芋や野菜、山菜、大豆の加工品などである。この日のため掃除をしたり、道具類を蔵から出してきたり、さらに調理にと、準備は大変であるが、それでも信仰にふれ縁者が集うひとときは苦労を忘れさせてくれるものであった。
 昔からの報恩講のしきたりが残されている五箇山での料理を見てみる。
 春の芽吹きの頃近くの山でわらび、ぜんまいなどを摘みとり、塩づけしたり、干したりして、物儀(ものぎ)のごちそうのためたくさん準備しておく。米や芋や大根はこの秋に収穫したばかりのもので、今年の作柄の話題にもなる。豆腐はあぜ道で作った大豆を用いたこの日のための自家製であった。重石を強くするので五箇山豆腐といわれるほどに硬いもので、ひもでしばって吊して持てたといわれる。油あげもたいへんなごちそうで、歓待の意味もこめて大きいまま盛り付ける。
御満座
 県下寺院の8割を真宗寺院が占め、真宗が盛んであるが、それは蓮如上人以降お講とよばれる組織を通して信者が広まったといわれる。お講とは僧による仏典を講議する会を意味し、読経、講話と共同飲食(斎)からなる。尼講のように女性のみや、同じ職種などで組職し、お寺やまわりもちの当番宿で開かれる。お経を習い、講話を開いて精神の修養に努めるとともにもちよりの料理や共同で作る料理での会食も講仲間の楽しみである。
 お寺でも年何回かお講(お座)が開かれ、報恩講、御満座(ごまんさん)には門徒の人たちが大勢お参りし斎が供される。御満座は親鸞聖人の命日のお講で、7日前から行われる最後の日の意味である。お東は11月28日、この時に供されるのがいとこ煮である。この時期はちょうど寒さがきびしくなる頃で、悪天候を富山ではごまんさん荒れといっている。
 いとこ煮は野菜などを小豆と共に煮た汁である。大根、人参、ごぼう、里芋など丸いものは大きさによって輪切り、半月、いちょうに切り、豆腐、油揚、こんにゃくは色紙に切る。これらを軟らかく煮て、別に軟らかく煮た小豆と一緒にして味噌で味つけをする。名前の由来は、似たような材料をいとこの関係にみたてたとか、親鸞聖人の遺徳をしのんで食べるからとの意見がある。
 大豆製品を中心に栄養も豊富でそれぞれの材料のうま味がとけあい、熱い汁は身体を暖める。親鸞聖人をしのびながら家庭でも作る冬の郷土料理である。いとこ煮ほど材料の品数は多くないものもあり、豆腐と小豆の汁、大根と小豆の汁も報恩講などで供される。小豆入りの汁は信仰と深く結びつき、豊作祈願でも小豆汁は田の土を表わすものと見られているように、種々の霊力を持つとされてきたようである。大豆と小豆、里芋、大根などは共に稲作以前の焼畑農業の産物である。いとこ煮は焼畑農民の感謝祭の名残りが親鸞の命日の行事に結びついているともいわれる。
虫干法会
 砺波平野と平村、上平村を結ぶ要所、城端町に真宗別院善徳寺がある。このお寺の最大行事は暑い土用の中、1週間にわたって行われる虫干法会である。以前は各家でも衣類の虫干しをする習慣があったが、善徳寺ではお寺全体、例えば山門、本堂などの建物、仏像、絵巻物、打ち敷その他の文化財、美術品などを開放展示する。中でも聖徳太子の一代を絵巻きにした掛軸を並べて講じる絵解きは法会全体の中心である。近郷近在だけでなく遠方から泊まりがけでくる人もあり広い本堂や庫俚(くり)は参詣者で一杯で、昨年も非常に賑わった。午前中の一連の講話がすむと食事(斎(とき))が供される。斎は一般的には精進ものであるが、ここではさば(鯖)ずしの一品が供される。同じ頃、井波町の瑞泉寺では太子伝会が行われ、ここでも斎の一品に鯖ずしが供される。
 おすしといえば、にぎり、ちらし、巻きずし、押しずしなどどれもすし飯と具の両方を食べる。富山の鱒のすしは塩と酢で〆めた魚をすし飯にのせて重石をし、味をなじませる押しずしの一種である。これらは皆はやずしの分類になる。一方善徳寺の鯖ずしは正しくは鯖のなれずしで、魚だけを食べる。
 すしの原型は米飯を活用して魚を貯蔵することから始まっている。沢山獲れた魚や、漁獲期の限られた魚を日時をおいて食用にでき、しかも風味を活かすために微生物のカを借りて発酵という方法を取り入れている。日本人は酒、酢はもちろん味噌醤油、糠漬けなどの発酵食品を造り出し独特の食文化を伝えてきた。しかしこのなれずしは現在ではほとんど作られなくなっているが、富山の真宗寺院で脈々と受けつがれているのは、信仰という目的だけでなく広い範囲にわたって地域と共に文化の継承の役を果してきたたまものといえる。
 塩や酢だけで魚を貯蔵しようとうすると食味に耐えられない量を使用しなければならない。鯖のなれずしは乳酸菌の力で他の腐敗菌の繁殖を抑える原理で作る。
 3枚に卸して塩漬けした鯖を飯の層にはさむように何段もくり返して漬けこんで重石をして密封する。飯のでんぷんがぶどう糖に分解され、さらに乳酸菌によって乳酸ができる。この変化を乳酸発酵という。発酵によって飯はどろどろの状態になり、乳酸の酸度によって魚のたんばく質は変性、熟成して身がしまり、まろやかな酸味を呈し独特の風味と食感になる。
 鯖のなれずしの漬けこみは6月のはじめ地元の魚商組合の人の手で行われる。これも講(組合)の一つである。鯖百匹も入る四斗樽を、10樽以上も漬けて温度変化の少ない小屋におかれる。当日、糠床から沢庵を取り出すように、漬け床から鯖を取り出し、きれいにして食べやすい大きさに切って皿に盛る。
 広い食堂に3〜4人用の長ご膳が並べられ、お参りの終わった人が次々と斎をいただく。ごはんと清汁と野菜の煮物と鯖のなれずしである。お椀のかわりに器はプラスチックに変わったものの、年代物の一枚板の長ご膳、盛夏でも涼しい高い天井の食堂でいただく斎は信仰にいきづく文化を実感させてくれる。
(しおはら つなえ・富山女子短期大学教授)
−平成7年2月18日放送−
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