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テレビ放送講座 平成元年度テキスト「第6回 人魚の海」


 富山県民生涯学習カレッジ本部

TOP 第6回 人魚の海 津田 武美

(一)
 日本は世界一の漁業国だが、そのうち富山の漁獲はどれ位?魚の種類は?
 「富山の魚はおいしい」というが?
 富山湾には多くの河川が注入し、陸棚(りくだな)が狭く深い海谷が岸に追っている。
 富山県の海岸線は108キロと短く、自然海岸は、全国の49%に対してもわずかに15%しかない。
 ここに、富山新港の東側に90万平方メートル、西側70万平方メートルの埋め立てが終了した。
地域開発と喜ぶか、環境破壊と悲しむか。
 「開発には基礎研究が大切、海の科学的理解には、海を愛する基本姿勢がなければならない。」− 宇田 道隆
 海よ! あなたのなかに 母がある
 母よ! あなたのなかに 海がある
            三好 達治
 「海」の中に母の字がある。そして、フランス語で母はMERE・海はMER。字を見てなるほどと思うが、これは単に詩的表現だけではない。
 海はうみで、名実ともに産(う)む「生(うみ)」なのである。30億年以上も大昔、地球上に生命がはじめて生まれたのは、海からであった、と、多くの学者は考えている。
 今や地球上に人類が爆発的に増加し、エネルギーはますます必要になってきている。
<グローバルな、食糧とエネルギー対策>対策と海−その海は死につつある、という人がいる。
 海は広く大きい、しかし無限ではない。一衣帯水−海は埋められ、汚染される。生活汚水が海に入り工場排水が海に注ぎ、大気の汚れも又、雨にあらわれて海に、いろいろな公害が、最後には海に集まる。
 人類が、他の生物と共存し、繁栄するには、海の科学が大事。海を愛することは、人類を愛することである。
(二)
 日本は、年に1,100万トンも魚介類が獲れる世界一の漁業国である。こんなに沢山魚が獲れれば、国内では余るだろう、魚は安いだろうと思われるが、現状は輸出するより買い入れる方が倍も多い。
 輸出70万トン(1万トン当たり約19億円)
 輸入130万トン(1万トン当たり約54億円)
 しかも、日本人が消費するのは、高級魚ということが分かる。
 ″どこの海も自由−沿岸で獲れなきゃ沖合で、そこが駄目なら遠洋だ”、というのが日本水産業界であった。ところが、昭和52、3年に、世界各国が相次いで「200カイリ漁業専管水域」を宣言。
 日本にとっては遠洋でも、その国にとっては玄関口かもしれないし、庭先にあたる海なのである。
 好漁場のソ連・アメリカなどの水域で、漁獲制限された。<獲る漁業>だけでは駄目、<育てる漁業>に力を入れねばならなくなったのである。もっとも、サケの人工ふ化・鰻の養殖は昔から行われていたし、養殖ハマチも軌道にのっている。とはいえ、下表のように7%に過ぎない。さし当たって何とか1割に、というのが、国の計画であり、本県の目標である。

日本年漁獲量  1100万t
750 350 
 

   

 
輸出 50       輸出 20 
   100 輸入 30 輸入   
       
800 360
日本年消費量  1160万t 
 海岸線(km)漁獲量(万t)1km当り(t)
秋  田 225 3.2 142
山  形 110 2.0 182
新  潟 563 8.6 152
富  山 108 4.0 370
石  川 569 10.8 190
福  井 392 4.2 107
京  都 310 2.9 94
全   国 33,000 1,100.0 333
 全 国富山富山/全図
遠  洋 320.0 0.5 0.16
沿岸・沖合 700.0 3.2 0.46
養  殖 80.0 0.3 0.38
1,100万t 4万t 0.36

 漁獲量消費量不足量
全 国 1,100 1,160 60
富山県 4 7 3

 富山湾の環境調査から、ヒラメ・タイ・クルマエビ・アワビ・サザエの増殖や養殖が最も適当とされ、実際に育てられている。人工ふ化の稚魚を海に放流して、成魚になったのを獲るのが増殖で、天然あるいは人工ふ化の稚魚を、囲いの中で餌を与えて育てるのが養殖である。
 養殖の場合、例えば、出荷されるハマチは普通1.2キローこれだけにするのに1キロのサバが8尾も9尾も餌として与えられる。安い魚を餌にして、美味な高級魚を作るのが養殖なのである。
 マダイの養殖にしても、タイの8倍以上の量の魚が餌として必要。
 餌にする魚の値段の10倍位で売れる魚を養殖しないと、商売にはならないということである。
 ハマチ養殖がはじまった昭和30年、盛んになった40年頃は、餌代が1キロ15円弱で、ハマチ1キロ約300円だったから、20倍。ところが近頃のよぅに餌代が100円、ハマチが千円では、採算がギリギリの計算になる。
 狭い場所で沢山の魚を飼うのだから、魚のふん・餌のかすがたまり、病気にかかりやすい。農業でいう「連作障害」もみられるし「赤潮による全滅」の心配もある。これらの対策に人手もかかる、養殖より増殖に力を入れるべきだといぅことになる。
″放流しても、魚は泳ぎ移動する、折角お金をかけても、他所(よそ)で獲られては…″
 だとすれば先ず、増殖は、個人じゃなくて、国・県が率先し、団体や組合が推進しなければならない。
 富山湾増殖の目玉は、ヒラメが一番。受精卵は約60時間でふ化、仔魚の餌はシオミズツボワムシが最適。仔魚は50日位すると体長2センチ位の可愛いヒラメのこどもになる、これを海に放流する。ヒラメは遠くへは移動しない、地先性の底魚である。自然の海で育ったヒラメは、30センチ位になると、1尾数千円の高級魚である。
 ヒラメに次いで、タイ・タチウオ・メバル・フグや、クルマエビ・カザミ・アワビ・サザエ・バイなどがいい。
 増殖には、「富山湾はみななかま・日本海はひとつ」と、考えねばならない。
 本年度、富山湾で、科学技術庁の「アクアマリン計画」の一環として、海域肥沃実験がはじまった。栄養分の豊富な深層(水深200メートル以下)の水を汲み上げ、これを海面に散水して、魚の餌になるプランクトンを増殖し、魚の宝庫にしようという計画である。構想は、誠に結構。「肥沃化の実用」と並行して、実験海域の「生態系の調査」も継続して貰いたい。
 なお、実験船はその名も「豊洋」。
(三)
 ″おさかながおいしくて いいねェ”よそから富山へきたお客さんは、きまってそういう。また、旅先で魚料理を食べると、大方の人は−魚はやはり地元富山にかぎる、と思う。
 定置魚では、栄養塩類を含む急流の河川が、湾内に多く注入するからであり、回遊魚では、丁度脂ののった″旬(しゅん)”に、湾内に来るからだろう、と考える。
 しかし味覚には好みがあり慣習もあって、客観的な比較は難しい。
 富山湾で獲れる魚の種類は、他の海区なみで、特に多いことはない。
 魚  種東北区富山湾山陰区日本海
北方系 132 102 100 164種
温帯系 104 89 98 113種
南方系 294 333 329 463種
530 524 527 740種
富山湾北方系温帯系南方系
湾の魚種 102 89 333 524種
うち深海魚 43 7 30 80種
42 8 9 15%
 上表の通り、日本海には740種、うち富山湾に524種が分布する。魚種を、<北方系・温帯系・南方系>及び<東北区・富山湾・山陰区>に区分して発表したのが、昭和51年(1976)のことである。
 大体、魚を系統的に分類すること自体が議論の多いところであり、更に資料の不足と相俟って、極めて冒険的な試みであったが、傾向を知る為にも敢て発表したものである。以後10余年間、多くの方から教示も頂いた。
 平成元年11月現在、日本産の魚種は、3,362種、うち日本海からは、834種となり、94種(11%)も増加した。来春、図を記載し発表するつもりでいる。
 富山湾の魚相は、北方寒海性百2種に対して、南方暖海性が333種で、種類は暖海魚の方が、3倍以上も多い。しかし、質でなく量では、寒・暖両魚はほぼ同じ漁獲高である。
 ここに全国に対して本県を統計上比較する基準として<百分の1>という、一応の目安がある。そうすれば、約10万トンということになり、県漁獲量4万トンでは半分以下ということ、県内消費量は約7万トンだから、3万トンの不足である。″3万トン″は、獲れる量がそれだけ少ない数であると同時に、県の魚を消費する量がそれだけ少ないということでもある。魚食県では、決してないのである。
 原因としては、海域面積が狭いということである。漁場に通した陸棚が少なく、魚礁となる島・岩礁が乏しい。海底は起伏に富み、深い海谷が岸近くまで迫っていることなどが考えられる。
 だが、これらの悪条件を克服して、海岸線1キロ当たりの漁獲は、全国平均を上回り隣県の倍以上で、漁獲方法は誇ってよい。特に、定置網漁は断然トップ。
 富山湾では、季節差はあるが、大体水深150メートル辺までは暖流の勢力圏であり、一般に食用にされる魚の多くはこの圏に生息する。これ以深は、日本海固有の冷水圏となり、この深層水が湾全体の海水の約9割を占めている。
 深層は、栄養分に富むが、それを摂取するプランクトン(魚の主食)の環境としては、日光が届かず酸素の溶存も少ないので、一部の深海魚を除いて魚が群れをなして住むには通さない。この深層水を利用し、肥沃海域を拡げるのが「豊洋」。
(四)
空に雷 太鼓をたたきゃ 山は霰(あられ)に 海は鰤(ぶり)
 富山湾の初鰤は、10月下旬か遅れても11月初旬である。初鰤から年末にかけての2か月間がブリ・シーズン。この間に、雷が鳴り海が荒れると、″ぶりおこし″。低気圧は強い向岸流をおこし、鰤の群れが岸におし寄せる。外界は寒いが浜は熱気だつ。この南下鰤は、北海道辺で飽食し脂がのって、味は格別。外は天然冷蔵庫、世は歳暮期−越中鰤として名をはせる。
逝く歳や チリ鍋の湯げあたたかく
 これは″鱈(たら)チリ″のこと、鍋もいいが″鱈の子付(こつ)け”刺身が、うまい。″雪道とタラ汁は、あとほどいい”−のタラは、タラはタラでもキダラ−助宗(すけそう)又は佐渡鱈(すけとだら)で、マダラ=真鱈ではない。
越中のカガバイ 加賀の越中蜆
 ″バイ刺し″は、いつ食べてもうまいが旬(しゅん)は冬、カガバイが最高、次いでオオエッチュウバイ。魚屋に多く並ぶのはエッチュウバイ−但しこれの大半は、県外物富山湾に、カガバイは多いが、エッチュウバイは少ないのである。
 ホクコクアカエビは″甘(あま)えび”の名で有名。雄性先熟で性転換するから、食膳にのぼる位の大きいものは全部雌(めす)。腹に緑色の卵を抱いている。
 甘えびはうす赤色をしているのに対し、シラエビ(ひらたえび)は名の通り白色をしている。これの天婦羅(てんぷら)がうまい。新湊沖の海谷に多く、市の文化財に指定。
竜宮のちょうちんみせよホタルイカ
 −が群遊するのは富山湾が日本の代表なので、特別天然記念物に指定される。ホタルイカのそうめん作り−はうまい。
甘露煮もいいが、酢味噌和(すみそあ)えは、絶品。
 山陰で″マツバガニ″、福井で″エチゼンガニ″というのは、ズワイガニ。富山で″ズワイ″と言えば雄がにの方で、雌は″コウバク″ と言い、やや小型。雌は、年中かにのふんどしに外卵(そとこ)をもち腹に中子((なかこ)卵)をもつので、脱皮できないから、大きくなれないのである。寒海性のかにで、水深200メートル辺で獲れる。
 これに対して、1,000メートル以下の深海から獲れるのが″ベニズワイガニ″。網漁では駄目なので、篭縄漁で獲っている。
 このように、富山の冬の味覚は多い。
まくれ寄る 荒波寒し 囲(かこ)い船
 冬の富山湾は暗い。時化(しけ)る日が多い。味覚でなく、荒天の後浜辺に行くと、いろいろの魚が打ちあげられている。
○ハリセンボン−針歳暮(12月8日 2月8日)この頃に、打ちあがる。
フグ類で、針千本と書く。体一面に(鱗が変化した)針がある。体長は約10センチ。針は1,000本はなく300〜500本で、平均314本である。南方魚で、南海では40センチ位だから、湾内で見るのは幼魚。これが、バケツに数杯も打ちあがる。同類のハコフグ・イシガキフグもあがる。
○カイダコ−白色で波紋のある美しい貝殻(卵を保育する産室で、雌だけが石灰質を分泌して作る)をもつ章魚(たこ)である。遠く南海から、対島暖流にのって北上してきたのである。
○キンチャクダイ−富山湾では、過去 40年間で、最初が11月29日で、最終が12月7日、この旬日に限ってのみ獲れる。南国からの定期便である。
 外に、ハマシマガツオ・アカマンボウ・カゴカキタイ・イトヒキアジ・ゲンロクダイ・オジロスズメダイなど、多い。海蛇や海亀もまた、冬、湾内沿岸にくる。
 これらは皆、黒潮にのり、分岐した対島暖流とともに南海から、遠い旅をしてきた動物たちである。
 夏が過ぎて、暖流の力が弱まり、日本海固有の冷水魂が勢いをましてくる。
 冬の北西季節風が吹きつけ、海水温が下がってくる。
 泳ぐ力の弱いもの・幼魚や、深海魚(だが中層性の魚)のあるものは、捲れ寄る荒波にもまれて、雪のある磯に打ちあがる。
 しけあとの磯は身上げ魚が多い、さびしい。
 南方深海魚の「紐体類(ちゅうたいるい)」が、巨体を磯にさらして、ニュース報道されるのも、また、この頃である。
(五)
なじかは知らねど こころわびて 昔のつたえは そぞろ身にしむ
 長き髪うるわしの乙女<人魚>といえば、幼き日の思い出につながるなにかをいだかせ、そぞろ身につまされる。
 コペンハーゲンの港口にある人魚像。アンデルセンの「人魚姫」、リーポル。
 小川未明の「赤いろうそくと人魚」は、新潟県高田地方の民話をもとに書かれた。
 富山県にも、立山山麓に「白比丘尼(しろびくに)」。
 黒部市村椿に「玉椿姫」の民話がある。
 魚津水族館前・富山市役所横・小矢部市子撫(こなで)川上流に、美しい人魚像がある。
 石川県能登が、話の舞台になる童話に、杉みき子「人魚のいない海」がある。
 福井県小浜市の空印寺に「八百比丘尼縁起」と、人魚姫の坐像がある。
 日本書紀はじめ、古今著聞集・北条五代記・六物新志・甲子夜話・本朝年代記−など、人魚について書かれた本が日本に沢山ある。これらの童話・民話や、実見談のほとんどが、日本海わけても北陸に集中していることに、注目したい。

 人 魚 (一名・海雷)
文化二乙丑五月越中国富山領放生津四方之浜候海一日二三度出海流其浦漁一向無之其上此魚之出浜村火災有之
御領主訴依之鉄炮数多被御身打留
声三十町程聞
惣丈 三丈五尺・髪 一丈四尺
背 薄赤・腹 火如
本草綱目有人魚二種日 目鯢異物志云

<内閣文庫蔵「街談文々集要」より>

 別に、大体同じ内容が、瓦版−当時の新聞<早稲田大学蔵「瓦版」>にも記載される。
  • 身の丈(たけ)・11メートル以上で、髪(かみ)が長い
  • 背が薄赤色で、腹は朱色
こんな巨大な怪物が、現実にいたのだろうか。
 日本に伝わる人魚の、話・実見記録を調査すると、それに共通する点は、
  1. 人魚の現れるのは荒天(あらし)の直後
  2. 人魚の大きさは、人間大から10メートル
  3. 人魚は、髪が長く・赤色がある
 嵐では海女(あま)は海に入らないし、クジラやイルカ類にしては、髪・色がおかしい。
 ここに、南方深海魚の「紐体類(ちゅうたいるい)」−この類は、大きさ・魚・髪から獲れる状況まで、まさに①〜③にピッタリの魚である。
 今も、隠岐から佐渡、とくに富山湾新湊沖のあいがめ(海の深谷)で、毎年獲れている。世界的に、珍稀種なので、紐体類を、昭和57年(1982年)天然記念物に指定した。
 「朝鮮に″サンカルチー″という伝説的動物がいて、その肉は不老長寿の薬とされる。この動物が、山から雲に乗って海岸へ水を呑みにやってくる。その折に獲えたという標本を何体か調べたところ、その正体は、リュウグウノツカイとサケガシラであった」−と九州大学名誉教授・内田恵太郎博士は著書「人魚考」に述べておられる。
 この<竜宮の使(りゅうぐうのつかい)><鮭の王(さけのがしら)>が、紐体類で、富山湾で獲れるのは2〜5メートル。新湊浦(放生津)の漁師は<花魁(おいらん)>と呼んでいる。南方系・深海性の硬骨魚で、強い水圧に耐える為、骨は軟らかくて弱く、身肉は水分が多くクニャクニャして旨くない。その卵は、対島海峡・若狭湾・富山湾(最多域)・佐渡で採集される。
 目下、研究中の話題の魚である。
(つだ たけよし・元奈古中学校校長)
−平成2年2月24日放送−
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