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テレビ放送講座 平成2年度テキスト「第2回 川はいのちを育む 河川の生態系」


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TOP 第2回 川はいのちを育む 河川の生態系 田中 晋

 とうとうと流れる大きな川、せせらぎも楽しい小さな川、清冽な川、濁った川、水のない川、川は私達の前にさまざまな姿、形をみせてくれる。川の流れの主体は水である。川を流れる水は、上下水道など私達の生活に直接必要なだけではなく、農作物を育て、電力をつくりだすエネルギーとして利用されている。川のエネルギーは時には洪水となって大きな災害をもたらすこともある。川はまたさまざまな廃水を運び去ってくれるなど私達の生活に密着した存在である。
 橋の上から川面を眺めると、釣り人のいない岸辺の浅瀬に、アオサギが列をなしてじっと水面をみつめていることに気がつくであろう。また、上空にはヤマセミがホバリングして獲物を狙っており、トビも大きな弧を描いて飛翔している。これらの鳥たちは陸上にねぐらをもっているが、川に大きく依存して生活している動物である。さらに水の中にはおびただしい数の生物がいるのである。
 私達にとって水の中はみえにくい世界である。岸辺近くに生育する水草、活発に遊泳する魚はよく目につく存在であるが、川の中には魚の食物となる昆虫のような小型の動物や礫の上に繁茂する藻類、さらにこれらの生物の遺骸を分解するバクテリアにいたるまで、大きさもまちまちで多種多様な生物がみられる。
 これらの生物はてんでんばらばら勝手にいるのではなく、相互に何らかの関連をもったひとつのまとまりのあるシステムをなして存在している。このシステムは一般に生態系とよばれているものである。ここでは、富山県の川の生態系を構成している生物たちを順に紹介してゆくことにしよう。
1.植物
 太陽のエネルギーを利用して二酸化炭素と水から炭水化物を合成することができる植物は、有機物を生産するということから生産者とよばれている。川の生産者は、生活のタイプから大型の水草と微小な藻類の二つに分けることができる。前者は、流れのゆるい大きな川の下流域や平野部の細流にみられ、後者は川の源流域から下流まであらゆるところに広くみられる。
 大型の水草は生産者として重要なだけではなく、水草の群落は、ヨコエビ、コツブムシ、ユスリカの幼虫等多くの小動物のすみかとなり、またコイやフナのような魚類の産卵場所として、さらに多くの魚類の仔稚魚の生育場所として重要な役割を果たしている。
 澄んだ川の底にある石や礫をとりあげてみると、黄褐色の時には緑色をしたぬるぬるとしたものがついていることに気がつくであろう。これが珪藻(ケイソウ)、藍藻(ランソウ)、緑藻などからなる付着藻類である。ひとつひとつは肉眼ではみえないほど微小であるが、たくさんあつまって群落をなして目につくようになる。粘液のようなもので石や礫また水草の茎や葉などにしっかりと固着しており、指先でこすったくらいでははがれないほどである。葉緑素をもっているので緑色にみえるはずであるが、黄褐色にみえるのはキサントフィルという色素をもつケイソウが多いためである。海に生育するコンブやワカメが褐色にみえるのと同じ理屈である。
 川の中流から上流にかけては、川岸に生えるヨシなどを除くと、光合成によって有機物を生産するのはこの付着藻類が主役である。カゲロウなどの水生昆虫やアユなどの魚類は直接付着藻類を食べて生活している。川の生態系の基礎生産をになっており、小動物、魚類へとつながる食物連鎖の底辺に位置する重要な生物である。
2.底生動物
 川の上〜中流域では石や礫の下、下流域では水草帯の中などに、おびただしい数の小動物がいる。多くは水生昆虫とよばれるカゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫であるが、カワニナ、タニシ、ドブガイのような貝類(軟体動物)、サワガニ、モクズガニのような甲殻類、ナミウズムシのような扁形動物、ヒルやイトミミズのような環形動物、さらに微小なものでは、ミジンコ類、輪虫類、原生動物など多種多様である。
 カゲロウ類やカワゲラ類が多ければ水はまだきれいであることの証拠となり、いもむし型をしたトビケラやカワニナがでてくれば水も多少汚れてきたことを示している。さらに赤い色をしたユスリカやドロムシ、ヒルがでてくるようになると川の汚れもかなりひどく、川もドブ川状を呈するようになる。
 これらの動物は、付着藻類を食べるものが多いが、肉食のものもおり、腐肉食のもの、デトリタス(生物の死骸が分解しへドロ状となったもの)食のものなど場所や汚れの程度に応じて組み合わせが変化してくる。
 川は上流から下流へとたえず一定方向へ流れているため、これらの動物は流されないためのさまざまな適応をしている。しかし、いったん洪水があると流されてしまうことが多い。成虫になると翅をもち飛ぶことのできる昆虫では、羽化すると上流方向へ飛翔して産卵し、この流下に対応していることが知られている。他の動物も水鳥の趾に付着したりして少しでも上流へ移動する努力をしているのであろう。
3.魚類
 大型動物の中で水中生活にもっとも適応し、繁栄したのは魚類である。多くの魚類は海洋で生活しているが、川や湖など淡水域に入ってきた魚類もかなりの数に達する。富山県内の河川や湖沼で現在までに記録された魚類は87種であるが、この中にはサケのように川へ産卵にやってくるもの(回遊魚)や、クロダイ、クサフグのように海の沿岸にいるもので川へもよく入ってくるもの(周縁魚)、マハゼ、ボラのように河口などの汽水域にすむものを含み、またアユやハゼの仲間、カジカの仲間の多くも一生のうちの一時期を海ですごすなど海と関係をもったものが多い。これらの魚類を除く、一生を淡水域ですごすものは、コイ科、ドジョウ科、ナマズ科など比較的限られた魚類だけとなる。
 富山県で記録された87種の内訳は、淡水域で一生をすごすもの46種、海と川を往復するもの25種、汽水魚11種、周縁魚5種である。87種のうち自然分布種は64種であるが、ホトケドジョウはすでに県内では絶滅したと考えられている。残りの23種は県外からの移入種である。移入種には2通りあり、ニジマスやワカサギ、ゲンゴロウブナのように養殖や漁業を目的として導入をはかったものと、放流用アユの種苗に混じって入り込んできたものとである。最近、釣りの対象として北米原産のブラックバス、ブルーギルがもちこまれ、各地で繁殖している。これらの魚は繁殖力が旺盛で、在来種の仔稚魚を捕食するため、従来の生態系を撹乱するとして問題となっている。
 富山県には大きな湖沼がないため、淡水魚の種数は多くないけれども、全国的にみて分布の限られた貴重な魚類もおり、また富山県を分布の境界としている魚種もいる。その内のいくつかを紹介してみよう。
 山間の渓流にすむアジメドジョウは中部地方から関西の一部にかけて分布しているめずらしいドジョウである。シマドジョウに似た斑紋をもち、富山県では小矢部川から角川までの上流域の渓流でみられるが、角川が日本海側の分布の東限にあたる。渓流では川底の礫に付着した藻類を食べており、秋になると伏流水の中に入って産卵し越冬する。
 分布の境界が富山県の河川にある魚種はほかにカワムツ、カワヨシノボリ、マルタウグイをあげることができる。また、カンキョウカジカは北海道と東北地方の北部に分布する魚であるが、なぜか富山県の東部の河川に出現する。同様に、絶滅の心配のあることから天然記念物に指定され保護されているイタセンパラも、琵琶湖淀川水系と木曾三川を除くと富山県の放生津潟、十二町潟周辺に分布の限られた魚である。
 消え行く魚を一つ紹介しておこう。巣をつくる魚として知られているトミヨは、背中に9本内外、腹部に1対の棘をもつことから、ハリウオ、トゲウオ、ガリセンボなどとよばれ親しまれてきた。かつて庄川や黒部川の扇状地にある湧水のでる小河川を中心に県下の平野部に広く分布していたが、生息地である湧水帯の水草の繁茂する小河川が改修されて生息場所を失い、年々分布域が狭まってきており、絶滅が心配されるようになってしまった。
 川にすむ魚類は行動の様式から大きく二つに分けられる。川の中で活発に遊泳して餌をとるものと、川底や岸辺の穴の中などにじっとしており、近づいてくる小動物や他の魚類を捕えて食べて生活するものとである。前者には渓流釣りの対象であるイワナやヤマメ、また「なわばり」をつくる魚として知られているアユやコイ科の多くの種が含まれる。後者には、ハゼの仲間、カジカの仲間、ナマズ、アカザなどをあげることができる。また、遊泳性の魚は普通昼間活動しているが、底生の魚食性の魚には夜行性のものが多い。
 川にすむ魚類はまた、流れがあることで産卵が制約されてくる。川底を掘って窪みをつくり、その中に産卵した後埋め戻すもの(サケ、サクラマスなど)、川底の礫に卵を付着させるもの (アユ、オイカワなど)、水草に卵を付着させるもの(コイ、フナなど)などであり、ハゼやカジカの仲間では礫の下などに巣をつくり、卵を産着させて親魚が保護する習性をもつ。またタナゴ類のように二枚貝の胎内に産卵管を挿入して産み付けるもの、水草片を集めて巣をつくり、その中に産卵するもの(イトヨ、トミヨ)などのかわりものもいる。
 一般に魚類は、親魚の保護があるものほど大きくて少数の卵を産む傾向がある。1雌当たりの卵数ではアユ、ウグイでは2〜3万に対し、サケでは4〜5,000、ヨシノボリやトミヨで4〜500、外敵から隔離された場所に産卵するタナゴ類ではさらに少なくなる。
4.河川環境の変化と生物
 富山県を流れる川の多くは急峻な山地から一気に富山湾へと流入している。急流の清冽な水の流れている川というイメージがあり、立山連峰を背景にした川の景観はすばらしいものである。また、庄川、常願寺川、黒部川では大規模な扇状地が発達し、その扇端部には河川の伏流水が湧きでる湧水帯があって、特有の生物相をもっていることが知られている。しかし一方では、神通川の下流には富山市が、庄川の下流には高岡市といった大都市があり、大量の都市廃水や工場廃水が川へ放出されている。昭和40年代には、これらの排水による河川の汚濁が社会的な問題となり、その浄化対策に力が入れられてきた。今日河川の汚濁はかなりの程度改善されたが、完全に解決したわけではない。
神通川中流域の魚類を中心とした食物連鎖 人間の活動によって、川の水は下流にくるほど汚れてくるが、汚れの程度は川にすむ生物をみるとよく分かる。きれいな水を好み、水が汚れてくると姿を消してしまう生物もいれば、汚れた水に大量に発生する生物もいる。さらに汚濁が進めば生物のみられない死の川となるであろう。バクテリア、原生動物、藻類から魚類、鳥類にいたるまで、川には多くの生物がそれぞれ微妙で複雑な関係をもって生存していることを忘れてはならない。
 昭和40年代から今日にかけて、河川の上流には数多くの大小のダムが建設され、平野部では農業用水を含め大規模な河川改修が行われてきた。そのおかげで洪水などの災害が発生する恐れは少なくなったが、河川の景観は人工的なものとなり、河川の生物にとってすみにくい状態へと変化した。そのために、河川の生物相は激変してしまったといってよい。多様で複雑な河川の生態系は、生物のあまりみられない単純なシステムヘと移行してしまったようである。平野部の小河川にごく普通にみられたフナ、ドジョウ、メダカといった魚が今ではめずらしい存在になってしまったことも、その変化をよく物語っている。
 河川はこのままでよいのであろうか。人間社会の未来のためにも、失われた自然を取り戻す努力をする時期にきているのではなかろうか。
(たなか すすむ・富山大学教育学部教授)
−平成3年2月2日放送−
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