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テレビ放送講座 平成2年度テキスト「第3回 川は暮らしを支える 河川の水質の成り立ちとその評価」


 富山県民生涯学習カレッジ本部

TOP 第3回 川は暮らしを支える 河川の水質の成り立ちとその評価 高倉 盛安

1.はじめに
 河川の水質は風送塩(海塩粒子)、地質および人間活動によって定まってくるものである。
 上流部から中流部にかけては主として風送塩と地質が影響し、特に地質の影響が大きい。下流部では人間活動(生活排水、農業排水および産業排水)の影響が顕著になってくる。
 さて、今日まで、水質汚濁が問題視されてきたのは主として下流部であり、本県では、昭和40年代から50年代前半までは産業排水による汚濁が目立っていた。しかし、適切な行政指導と企業側の改善努力とが相まって、汚濁負荷がかなり軽減されるに至った。それに対し、産業排水の汚濁の陰に隠れていた生活排水による汚濁が、昭和50年代後半より目立ちはじめ、現在は、生活排水による汚濁負荷が産業排水のそれを上回る状態となっている。そのため、市街地においては公共あるいは流域下水道、農村地帯においては農村下水道、それらのいずれにも対応できないところでは合併浄化槽の普及が強く叫ばれているのが現状である。
 なお、建設省所管の下水道普及率は平成元年度全国平均42%に対し、本県は26%である。
2.中流部における水質
 前述のように、水質汚濁が目立っていたのが下流部であったため、その流域に対する水質調査は、かなり頻繁に実施されてきたのであるが、上・中流部についての水質調査はあまり実施されてきていない。しかし、下流部における水質汚濁の程度を知るためには、当然、人為的影響の少ない上・中流部の水質状態の把握が不可欠であり、さらに、発電用水、農業用水および水道原水といった水利用の立場からも、また、扇状地において涵養される地下水の水質を云々する場合にも、上・中流部の水質が極めて重要になってくる。そのような意味で、ここでは、中流部の水質をとり上げることにする。
 (イ)無機成分からみた評価
 まず、本県の河川の水質が他の地域の河川の水質に比べ、どの程度優れているかをみてみよう。
図1 図1は、蒸発残留物量(無機成分量)について、世界の河川の平均値、わが国の河川の平均値、わが国各地方の河川の平均値および本県の河川の平均値を示したものである。本県では、黒部川、片貝川、早月川、常願寺川、神通川、庄川および小矢部川の7代表河川がとり上げられている。
 さて、世界の河川とわが国の河川ならびに本県の河川の三者を比較してみることにする。世界の河川の平均値が100㎎/? であるに対し、わが国の河川の平均値は74.8㎎/?とかなり低く、さらに、本県の河川の平均値は56.0㎎/?となお一層低い。このことは、世界の河川よりもわが国の河川の方が、わが国の河川の中でも、本県の河川の方が水質的に優れていることを端的に示している。
 なお、おいしい水の蒸発残留物量は30〜100㎎/? 程度であり、工業用水は、できるだけ少ない方がよい。
 では、このような水質の優劣がどうして生じたかを考えてみよう。第一の原因は、わが国は降水量が多く、また急流河川であるため、水面からの蒸発量が少ない。したがって、溶存物質は希釈されたような状態になっていること。第二の原因は、わが国の岩質分布は水に溶解しにくい火成岩の割合が多いのに対し、世界の岩質分布は水に溶解しやすい堆積岩の割合が多いためであり、特に本県は、わが国内でも第一および第二の原因が顕著であるため、良質な河川水が存在することになるのである。
 このように、本県の河川の水質は全般的に蒸発残留物量の少ない良質な状態であるが、個々の河川を比較した場合、自ずとそこに差異が認められる。つぎに、それらの関係をみてみよう。
図2 図2は、上述の県内代表7河川に小川および上庄川を加えた9河川について、それらの中流部における主要溶存成分量の状態を示したものである。主要溶存成分(主要溶存無機成分)とはナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン、塩素イオン、硫酸イオンおよびケイ酸の8種類である。これらの成分はすべて天然水中に含まれており、しかも、それら8成分の総量は蒸発残留物量にほぼ等しいとみてよい。
 なお、水質調査地点は、各河川が山地や丘陵地から平野部へ出たところで、比較的人為汚染の少ないところである(これを中流部とした)。また、これらの地点は図1の調査地点にほぼ等しい。
 さて、主要溶存成分総量を図2にしたがって、最少の河川から順に並べてみると次のようになる。
  1. 黒部川
  2. 小矢部川
  3. 早月川
  4. 小川
  5. 庄川
  6. 常願寺川
  7. 片貝川
  8. 神通川
  9. 上庄川
 ところで、この順位と各河川流域の岩質との間には、極めて深い関係が存在するのである。
 いま、この関係を考察するために、各河川流域における岩質の概要を図3に示した。また、それを整理したのが表1である。さらに、表2には、岩石の水に対する溶解性の大小を示した。これらの図や表と、前述の順位とを照合しながら考察を進める。
表−1 各河川流域における主な岩質分布
(高倉、1989)
流域岩質
小川 流紋岩
黒部川 花崗岩
片貝川 片麻岩、花崗岩、堆積岩類−(混在型)
早月川 花崗岩、片麻岩、流紋岩、堆積岩類−(混在型)
常願寺川 安山岩、片麻岩、花崗岩、堆積岩類−(混在型)
神通川 片麻岩
庄 川 花崗岩、流紋岩
小矢部川 流紋岩、安山岩、玄武岩、堆積岩類−(混在型)
上庄川 堆積岩類
表−2 各種岩石の水に対する溶解性
溶 解 性
 花崗岩 玄武岩   砂 岩
 流紋岩  安山岩  泥 岩
  片麻岩 石灰岩

〔備考〕地下水ハンドブック,145頁,1979よりまとめた


 まず、黒部川についてみると、9河川中、主要溶存成分総量が最も少ない状態にある。一方、その流域には、水に対し最小の溶解性をもつ花崗岩帯が広く分布している。このように、水質と岩質との関係がかなり明瞭に現れている。
 庄川も、その流域には、水に対する最少の溶解性をもつ花崗岩や流紋岩が分布しているが、流路延長および流域面積が9河川中最大であるため、河川水中への無機成分の供給が多くなり、その結果、主要溶存成分総量は低い方から数えて5番目になったものと考えられる。
 小矢部川は、調査地点の上流域には溶解性最小の流紋岩のほか、一部、溶解性中位の安山岩や玄武岩および溶解性最大の堆積岩などが分布しており、これら岩石からの無機成分の、河川への供給も考えられるのであるが、調査地点までの流程が短いため、供給量が少なく、その結果、黒部川についで2番目に低い値をとっているものと考えられる。
 常願寺川は、主要溶存成分総量がやや多く、順位は6番目である。その多い原因は岩質的なものよりも、むしろ、称名川上流左岸に存在する立山地獄谷温泉群ならびに湯川谷沿いに散在する立山温泉および新湯地獄(温泉)の影響である。そのため、他の河川に比ベカルシウムイオムおよび硫酸イオンの割合が高い。このことは、常願寺川扇状地の地下水は、他の扇状地の地下水に比べ、上記2成分の割合が高いという結果をもたらしている。
 神通川は、主要溶存成分総量がかなり多く、順位は8番目である。そして、それらの成分中、特に大きな割合を占めているのがカルシウムイオンと炭酸水素イオンである。その原因は、上流域に石灰質岩を多く含んだ片麻岩が広く分布しているからであると推定される。
 片貝川も、その上流域に石灰質岩を多く含む片麻岩帯が分布しているため、主要溶存成分総量が多く、順位は7番目になっている。
 上庄川は、9河川中、最も主要溶存成分総量が高い。特に他の8河川に比べ、際立って高い濃度を示しているのは、ナトリウムイオン、塩素イオン、硫酸イオンおよびケイ酸である。その原因は、水に対する溶解性が最も大きい砂岩や泥岩などの堆積岩帯を流れてくるからである。
 ただし、塩素イオンは風送塩(海塩粒子)起源、ナトリウムイオンは風送塩起源が6割、岩石起源が4割とみられる。
 以上、本県における代表的な7河川に、小川および上庄川を加えた9河川について、河川水中の主要溶存無機8成分と流域の岩質との関係について述べたが、主要溶存イオン7種の組成比は庄川の組成比で代表させることができ、また、わが国の河川の平均組成比は小矢部川の組成比で代表させることができる。
 (ロ)水質汚濁から見た評価
 河川、湖沼および海域などの公共用水域を水質汚濁から守るために、法的に設けられているのが環境基準である。この基準は、人の健康の保護に関するものと、生活環境の保全に関するものの二つに分けられており、それぞれの環境基準には、複数水質項目とそれらの項目の基準値とが設定されている。
 すなわち、前者の環境基準は有害物質9種類からなっている。それを示したのが表3である。
表−3 人の健康の保護に関する環境基準













(6価)








P
C
B


0.01
以下




0.1
以下
0.05
以下
0.05
以下
0.0005
以下




 一方、後者の環境基準は河川、湖沼および海域によってそれぞれ異なるが、河川では、5種類の水質項目と6つの類型からなっている。それを示したのが表4である。なお、これらの類型は利用目的に対応して上流部をAAとし、下流部へ向かってA、B、C、DおよびEまでの各類型があてはめられていく。たとえば、水道原水として利用する水域は、浄水場で処理可能な水質を保っておくことが必要であるから、B類型までである。また、割合に汚濁に強いコイやフナなどでも、十分、生育できるためには、C類型の水質を保っておくことが必要であり、これを河川としての限界水質と考えておいたほうがよい。したがって、C類型以下のDおよびE類型の水質はもはや河川ではないともいえる。なお、E類型は単に悪臭が発生しないといった程度の水質である。
表−4 河川における生活環境の保全に関する環境基準

型 

性 

基準値
水素
イオン
濃度
〔pH〕
生物化学的 酸素要求量
〔BOD〕
(mg/ℓ)
浮遊物質量
〔SS〕

(mg/ℓ)
溶存酸素量
〔DO〕

(mg/ℓ)
大腸菌群数
(MPN/100mℓ)
AA 水道1級
自然環境
保全
6.5〜8.5 1以下 25以下 7.5以上 50以下
A 水道2級
水産1級
水浴
6.5〜8.5 2以下 25以下 7.5以上 1,000以下
B 水道3級
水産2級
6.5〜8.5 3以下 25以下 5以上 5,000以下
C 水産3級
工水1級
6.5〜8.5 5以下 50以下 5以上
D 工水2級
農業用水
6.0〜8.5 8以下 100以下 2以上
E 工水3級
環境保全
6.0〜8.5 10以下 ごみの浮遊がないこと 2以上
以上のように、生活環境保全上の環境基準を用いて、河川の水質を評価する方法が、最も一般的であるが、環境基準に上げられている水質項目中、特に重要な項目はBODである。しかし、このBODはそれなりに弱点をもっている。その点を簡単に指摘しておこう。
 すなわち、BODは生活排水や食品加工排水ならびに畜産排水などのように、微生物によって分解されやすい有機物を多く含む排水の汚濁負荷や、それらの排水の影響を受けている河川水などの水質状態を、端的に示してくれる指標としては、極めて適切である。しかし、微生物に分解され難い有機物を含む排水や腐植質(土壌中の植物遺がい)などに対しては、BODの指標性は弱く、むしろCODの方がよい。したがって、人為的な汚染の少ない上・中流部の場合、天然の腐植質による汚濁もかなり関係してくるから、BODと共にCODの測定も重要になってくる。
 また、この河川の環境基準には、水質汚濁指標として重要な全窒素(T−N)および全リン(T−P)が入っていない。
 上述のように、BODの不備を補うためにCODを加え、さらに、全窒素および全リンも追加して、河川の中流部の水質の、自然的な面と人為的な面の両面をかね合わせた水質汚濁の新しい評価方法を試みた。そして、それを、清浄度指数と名付けた。表5にそれを示した。
表−5 水の清浄度指数


清浄度指数(PI)=0.5〔SS〕+〔COD〕+2〔BOD〕+4〔T−N〕+80〔T−P〕


〔備考〕PI(Purity Index)の値が小さいほど清浄

   SS:浮遊物質
   COD:化学的酸素要求量
   BOD:生物化学的酸素要求量
   T−N:全窒素
   T−P:全リン

 

(高倉 , 1989)

図4 さて、この清浄度指数を用いて、本県の代表的な9河川について、それらの中流部の水質汚濁の状態を表現してみると、図4のようになる。すなわち、最も清浄な河川から順に並べると、下記のようになる。なお、( )内には指定されている環境基準類型を示しておいた。
  1. ①黒部川 (AA)
  2. ②早月川 (AA)
  3. ③小 川 (AA)
  4. ④片貝川 (AA)
  5. ⑤常願寺川 (AA)
  6. ⑥庄 川 (AA)
  7. ⑦小矢部川 (A)
  8. ⑧神通川 (A)
  9. ⑨上庄川 (B)
 以上のように、清浄度指数から得られた各河川の清浄さと、指定されている環境基準類型とはよく一致しており、さらに、同一類型でも、河川の清浄さの優劣が、清浄度指数によって、明確に現れてきている。
 一般的に県東部の河川は清浄であり、特に黒部川は最も清浄である。これら県東部の河川は、上流域が急しゅんな山岳帯であるため、人の活動の場(生活、農業など)が狭く、また、岩石帯が広いため、植生が貧弱であるからだと考えられる。
 神通川は、上庄川についで清浄さが劣っている。それは、流路が長く、その上、上流域まで人の活動の場が展開しているからである。
 庄川は、神通川より清浄さが良好である。それは、流路は長いが、神通川に比べ、人の活動の場が狭いためであると考えられる。
 上庄川は、9河川中、最も清浄さが劣っている。それは、上流域が丘陵性の山地であるため、農業活動の場が広く、また、植生も豊かであり、さらに、風化堆積岩帯から流出してくる粘土性徴細粒子などの影響も大きいためと考えられる。
 小矢部川が、やや清浄さに欠けるのも、上庄川に類似した河川環境にあるためと考えられる。
3.むすび
 本県の代表的9河川について、それらの中流部の水質を対象として、水質と流域の岩質との間には、かなり深い関係が存在することを述べた。
 さらに、水質汚濁の新しい評価方法として、著者の試案による清浄度指数を示し、各河川の汚濁の程度を比較した。
 ところで、本県の河川の水質は、国内的にみても、世界的にみても、優れている方であるから、今後、一層の水質保全が望まれる。
(たかくら もりやす・富山県立大学短期大学部長)
−平成3年2月9日放送−
※ 著者の役職名は、放送日現在で表示しています
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