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テレビ放送講座 平成2年度テキスト「第2回 川はいのちを育む 河川の植物」


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TOP 第2回 川はいのちを育む 河川の植物 長井 真隆

 植物はその環境によって、種類や生え方に違いがある。たとえば雪崩の発生する不安定なところでは、斜上したタニウツギが見られ、安定したところではブナ林が発達する。また、急峻な岸壁にはコメツガなどの針葉樹が生育する。このように、植物は生育環境と深くかかわるので、その種類や生え方から、逆にそこの環境を推測することができる。
 ところで富山の河川は急流河川として全国によく知られているが、こうした河川環境と植物は、どのようにかかわっているのだろうか。グミ摘みで親しまれているアキグミも、急流河川の代表的な植物で、河川の氾濫と深い関係がある。また、小河川の水生植物も、その環境と深いかかわりをもっている。これらの植物は、河川環境の特徴をよく指標し、富山の河川と水辺景観を特徴づける一方、動物の生息環境など、河川の生態的環境として多様な機能を果たしている。
1.河川敷の植物
 上流部は河床勾配がきつく、侵食と運搬作用が活発で、河川敷は限られている。堆積作用が始まる中流部、ことに扇状地が開けるあたりから河川敷が展開する。この河川敷は、扇状地に発達した、いわゆる扇状地河川敷で、現在も洪水時に侵食と堆積作用が活発に行われ、その都度、水路が移動し、河川敷形態が変化している。
 一方、河口に近づくと流れが淀み、水路が一定し、河川敷形態が安定してくる。侵食作用がほとんどなく、細かい砂や泥を堆積する自然堤防帯には高低二つの河川敷がみられる。県内の多くの河川は急流河川で、扇状地河川敷はよく発達しているが、自然堤防帯河川敷は小矢部川を除いて規模は小さい。河川敷には、このように扇状地河川敷と自然堤防帯河川敷とがあり、植生や景観もそれぞれ異なる。
扇状地河川敷の植生
 扇状地河川敷は、洪水時に形態が変わるので植生は安定しない。このため裸地が草原に、草原が森林にという遷移が抑制され、植生は初期段階の単純群落に留まる。また、増水時に冠水を受け、減水期に日照りにさらされ、地表温度の日格差が大きく環境は過酷である。
 主な群落には、まずツルヨシ群落がある。不安定な水路べり砂礫地に見られる。ヨシより小型で、地表に数メートルの走出枝をのばし、節々から根をはり、ときに水路にはみでることがある。
 洪水時に破壊され、増水時に冠水するところには、カワラハハコ群落が発達する。これにはカワラヨモギ、メマツヨイグサ、ホッスガヤなどが混生する。この群落は扇状地河川敷の末端部まで見られ、自然堤防帯扇状地との境界を指標する群落として注目される。
 カワラハハコ群落より、やや安走し、冠水時に砂泥が堆積するところには、チガヤ群落、メドハギ群落が発達する。これにはヤハズソウ、メドハギ、トダシバ、アキノキリンソウ、ネジバナ、カワラナデシコなどが混生する。また、この群落の周辺、あるいは混交してコマツナギ群落やアキグミ群落がある。ススキやイヌコリヤナギ、あるいはアカマツの侵入も見られる。アカマツが群落に発達するところは少ないが、常願寺川の扇頂部や、早月川の旧河道などで見られる。
 安定度が比較的高く、水分供給のよいところには、高木ヤナギ群落が発達する。この群落は堤防付近でしばしば見られ、コゴメヤナギ、シロヤナギのほか、ネムノキ、オニグルミなどが混生する。入善町墓ノ木公園には大きな群落がある。
アキグミ群落は日本一
 アキグミ群落は扇状地河川敷の代表的な植生である。一部が虫食い状態になっているが、それでも立派な群落が連続して展開し、まさに日本一の群落である。常願寺川が一番大きくて、黒部川、早月川の順になる。
 この群落は、定期的な洪水と深い関係がある。洪水で新しく裸地ができると、アキグミがまず侵入する。アキグミは陽樹で日当たりを好む性質があり、また、根には根粒があり、その共生菌で空気中の窒素を取り入れる。それで貧栄養な川原でも生育できる。さらに日照りや、風、乾燥に対しては、葉の裏に密生した銀白色の鱗片が、これをやわらげ、水分の蒸散を防止する。アキグミはこうした性質で大群落をつくる。しかし、20年余りも経過すると老化し、やがて高木林に席を譲ることになる。ところが、富山の河川は17、8年周期で大洪水を繰り返すので、高木林に遷移する前に破壊されてしまう。破壊されても、アキグミは洪水で新たに堆積した裸地にすぐ侵入し、再び大群落に発達する。いわば大洪水が、アキグミ群落を恒常的に育むのである。
 富山の河川敷で、アキグミ群落がごく普通に見られるのは、こうした破壊と再生を周期的に繰り返す、富山の河川特性によるもので、まさにアキグミ群落は、富山の暴れ川を特徴づける象徴的な植生である。
自然堤防帯河川敷の植生
 自然堤防帯河川敷は、高低二つの河川敷がはっきりしている。それぞれを高河川敷と低河川敷と呼ぶ。低河川敷は水路に接して水面よりやや高く、幅が比較的狭い。洪水時はもちろんのこと増水時にも冠水する。一方の高河川敷は、それより一段高く、堤防まで広くつづいている。ここは洪水時だけに冠水するところである。
 低河川敷の水辺には、マコモ群落、ヨシ群落が発達し、ときにガマ群落も見られる。これらの群落の後ろには、高木ヤナギ群落が発達する。カワヤナギ、シロヤナギ、アカメヤナギなどである。この周辺にはセリ−クサヨシ群落が発達することが多く、カンガレイ、シロネ、ヒメシダなども混生する。
 高河川敷にはオギ群落が発達し、低木ヤナギ群落や、ヨシ群落が混交することもある。また、高河川敷の一部は、現在、畑地などに利用されている。
 河口付近の砂地には、規模は小さいが、まれに海浜植生が見られる。常願寺川左岸ではハマニガナやコウボウムギの群落が見られる。
2.小河川の水生植物
 水生植物は氾濫する河川には見られないが、河床が安定した小河川には見られる。その種類や生活の仕方は、流速、水深、水温、水質、透明度、河床の質や安定度などで決まる。水生植物を生活の仕方で分けると、抽水性水生植物、浮葉性水生植物。沈水性水生植物などになる。しかし、水温が年間ほぼ一定した湧水河川では、拍水性水生植物が沈水性に移行したり、あるいは陸生植物が水中に潜るなど、変わった現象が見られる。
抽水性水生植物
 水上に伸びる水生植物で、流速の緩い水辺に生育する。ヨシ、マコモ、ガマ、ヒメガマ、オランダガラン、ミクリなどのほか、陸生のオオイヌタデもある。
浮葉性水生植物
 葉を水面に浮かす水生植物で、流速が極端に緩く、河床が主に泥質のところに生育する。過去に非常に多かったトチカガミ、ガガブタなどは、除草剤で姿を消し、ヒルムシロ、オヒルムシロ、ホソバミズヒキモ、ヒシなどが見られる。
沈水性水生植物
 水中に沈んで生活する水生植物で、これには、流速が緩く、河床が砂泥質のところに生育するものと、流速がはやく、河床が礫また固形度の高い砂質に生育するものとがある。前者にはミズハコベ、クロモ、フサモなどがあるが、多くは帰化植物のオオカナダモに置き代わっている。また、後者にはバイカモや帰化植物のコカナダモがある。湧水河川では、このほか抽水性のミクリ、セリ、オランダガラシのほか、陸生のオオイヌタデや、イボクサ、ノチドメなども沈水するなど、珍しい現象が見られる。また、エビモ、ヤナギモなどは両者に共通して生育している。
 3.河川環境の変化と植物
 急激に高度化した今日の生活様式は、河川環境に少なからぬ影響を及ぼしている。たとえば廃棄物の投棄、また流量調節や河川敷利用などで、河川は本来の景観を失い、また、事業・生活排水などで水質汚濁も拡がっている。こうした環境の変化は、植生にも強く影響を与え、植物の移動交替が見られる。これを指標にして、その環境を診断評価することができる。
河川敷の都市化と植生
 建設省河川局では「簡易な河川植生調査法」を作成している。この方法は河川植生を19の凡例に分類し、それを人の影響を示す指標群落(帰化植物や富栄養化の指標となる群落)と、自然さを示す指標群落(河川に本来生育する群落)に大別し、それぞれを赤系統と緑系統の色で植生図をつくり、その面積の割合で都市化を見るのである。また、冠水の度合いなど環境特性も読みとれる。
植生図の凡例
 凡      例備     考




 1 ○ 高木ヤナギ林 高木林(4m以上)
 2 × ニセアカシヤ林(ヤナギ以外の高木林)
 3 ○ 低木ヤナギ林 低木林(4m以下)アキグミ林
 4 ○ ツルヨシ群落 イネ科草原
 5 ○ ススキ群落
 6 ○ オギ群落
 7 ○ ヨシ群落
 8 ○ シオクグ群落 塩性湿地草本群落(富山にない)
 9 ○ カワラハハコ群落 礫地草原
10 × セイタカアワダチソウ群落

広葉草原(富栄養地)

11 × ギシギシ群落
12 × イタドリ群落
13 × ヤナギモ群落 沈水草原
14 × アレチウリ群落 つる植物群落
15 × オオイヌタデ群落 1年生草本群落
そ の 他 16 × レクリエーション利用地
17 × 農業利用地
18 ○ 自然裸地
19     開放水域(水面)

○は自然さを示す指標群落、 ×印は人の影響を示す指標群落等

都市化の度合い
都市化の度合い人の影響を示す指標群落の面積
極めて低い 0 〜 20 %
低    い 20 〜 40%
低い中程度 40 〜 60 %
高い 60 〜 80 %
極めて高い 80 〜100 %
常願寺川左岸河川敷植生図 植生調査方法は、①堤防の上から植生を概観して図にする。②河川敷に降りて凡例群落の代表種を記録する。③水路から堤防までの植生断面を記録する。④環境と植生の関係や人の影響も記録する。⑤観察結果を植生図にする。赤系統と緑系統の色で凡例別に着色する。植生断面図も記入する。⑥都市化の度合いや環境特性を読み取る。
 この方法を参考にして常願寺川左岸、北陸自動車道上流で調査した結果、都市化の度合いは3(中程度)を示した。暴れ川と呼ばれる精悍な常願寺川にも、局地的ではあるが、ほかの河川と同様に人の影響が及んでいるのである。
水質汚濁と水生植物の機能
水生植物の汚濁指数の一例 河川は大気と異なり、水域範囲が限定され、また、閉鎖的で拡散性が乏しく、このため水質汚濁はときに水生植物を壊滅させることがある。ことに小河川は流量が少なく、その影響は顕著である。汚濁が進むと、清水性水生植物は消滅し、代わって耐汚濁性の水生植物が侵入する。汚濁が激しいと裸床になる。こうした水生植物の移動後退の原因を、栄養塩類や、有機汚濁物質などの個々にしぼることはむずかしいが、汚濁のトータルとして見ることができる。
 一般に、軽度の汚濁に対して、まず清水を指標するカワモズク、ミドリカワモズクが消滅する。次に沈水セリ、沈水ノチドメが、さらに汚濁が進むとヒルムシロが後退し、代わって耐汚水性のエビモ、ヤナギモ、沈水ミクリが侵入する。
 中程度の汚濁のところでは、種類数が減少し、粗い単純群落となる。汚濁が激しいところでは、水生植物を全く欠き裸床になる。これとは反対に、汚濁防止策がとられた排水路や、下水道が完備したところでは、沈水ミクリやヒルムシロ、エビモ、バイカモなどが回復している。
 水生植物は、このように水質汚濁に敏感である一方、生育許容範囲で優れた水質浄化能力がある。窒素や燐などの栄養塩類は、抽水性水生植物の水中根や、沈水性・浮葉性水生植物などの体表面から吸収する。また、体表面の着生藻類もこれを吸収する。有機汚濁物質は、着生微生物によって分解する。
 水生植物には、汚濁指標や、水質浄化作用のように、水質管理上優れた機能があるが、このほか魚類や鳥類の生息環境、あるいは河川の生態的環境や、水辺景観を育む多くの機能がある。河川環境の整備にあたっては、これらを十分考慮することが大切ではなかろうか。
(ながい しんりゅう・富山大学教育学部教授)
−平成3年2月2日放送−
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