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テレビ放送講座 平成12年度テキスト「第1回 富山県民謡の概要」


 富山県民生涯学習カレッジ本部   '01/01/20

TOP 第1回 富山県民謡の概要 中村 義朗

ふるさとに謡ありて 〜富山の民謡〜 古い伝統と長い歴史の中で、土地風土に根差し歌い継がれてきた民謡は、私たちに郷愁を感じさせ、心に安らぎと生きる力を与えてくれる貴重な文化財産である。
 人と人との交流の中で、作曲者不詳のまま伝えられてきた民謡の正体は果たしてどんなものなのか、その不思議さに迫ろうとしても容易に解きほぐすことのでさないところに、「民謡」の真の魅力と生命が存在するのかも知れない。
 富山県には、優美な「越中おわら節」、力強い「麦や節」、素朴な「こきりこ」など、日本を代表する民謡をはじめ、数多くの種類の民謡が存在し、日本民謡の宝庫ともいわれている。
 ここに、「越中おわら節」「麦や節」「こきりこ」について紹介する。
「越中おわら節」
 越中おわら節の本場は、300年余の歴史をもつ婦負郡八尾町である。
 その起源については、糸くり唄や海唄などの諸説があり、いずれとも定め難い。
 口伝として、元禄15年(1702)、八尾町の開祖米屋少兵衛の子孫が保管していた町建ての重要秘密文書の返済を得た喜びの祝いとして、3日間、唄、舞、音曲で町内を練り歩いたのが始まりとされ、この祭日3日が盂蘭盆(うらぼん)3日になり、やがて、二百十日の厄日に豊饒を祈る「風の盆」に変わったといわれている。
 唄は、叙情豊かで気品が高く、哀調の中に優雅さを秘めた詩的な曲調である。歌詞も美しく、胡弓の響きが旋律をひき立たせている。
 楽器は、三味線、胡弓、太鼓で演奏される。
「麦や節」
 麦や節の本場は、平家の落人が定住したともいわれる東砺波郡平村である。これらの地域には、麦や節の元唄ともいわれる「長麦や」、形を変えた「早麦や」、そして周辺には「利賀麦や節」「城端麦や節」が存在する。
 その起源については、平家の落人が越中五箇山に安住の地を得て、弓矢取る手を、鍬を持つ手にかえ、生活の合間に唄い始めたとされているが、曲調からみて、後述する「まだら」系統の唄がその元唄であるともいわれている。
 唄は、どこかもの哀しい歌詞と格調の高い力強い旋律に支えられたリズミカルな動き、囃子ことば 「ジャントコイ、ジャントコイ」から引き出される旋律が唄全体を特徴付けている。
 楽器は、三味線、胡弓、四ッ竹、太鼓で演奏される。
「こきりこ」
 こきりこの本場は、東砺波郡平村上梨である。
 こきりこ(筑子)とは、平安時代の田楽の替名であるが、宮永正運著の『越の下草』(1786)によれば、上梨白山宮に奉納される神事舞であり、唄は今様、踊りは白拍子に似ている。
 唄は、素朴であるが、上品な旋律で淡々と流れ、囃子ことば「マドのサンサはデデレコデン、ハレのサンサもデデレコデン」が印象的である。
 楽器は、鍬金、筑子竹、編竹、棒ざさら、編木子(板ざさら)、鼓、横笛、銅拍子で演奏される。
 こきりこは、中学校音楽科の共通教材として、教科書に掲載されてから全国的に知られるようになった。
 民謡の概念
 「民謡」は明治時代になってからの用語である。民謡とは、芸術歌曲に対して、民衆の間でうたわれている伝統的な歌の総称なのである。
 その特質として、
  • 生活文化の中から自然発生し、個人の創作ではなく、また、創作者が問題にされない歌であること
  • 楽譜を用いることなく、口承によって伝唱された歌であること
  • 目的や地域、演唱者によって、歌が固定化されず、交流や変遷が許される歌であること
  • ある程度、伝唱されてきた時間的長さの伝統をもつ歌であること
、などをあげることができる。民俗学的な立場からも、柳田国男は『民謡覚書』の中で、また、郡司正勝は『民俗辞典』の項で、民謡について、「平民の自ら作り、自ら歌っている歌」、「俚謡(りよう)、民俗歌謡、folk songと同じく、それぞれの民族の生活の中から自然発生した歌」と定義し、 1. の条件を強調している。従って、民謡は、郷土の民衆集団の間に自然発生し、その生活感情を素朴に反映し伝唱されてきた歌謡であり、そのうたわれる目的や機会は労作が中心であった。ここに、民謡発生の源を求めることができる。
 しかし、民謡には、「茶切節」のように、専門の作者による「新民謡」が生まれていることを特記しておかねばならない。
民謡の分類
 民謡が採集されると、うたわれる目的にしたがい、うたを分類する必要がある。
 日本の伝統音楽に対して、発生系統や流派が確定していない民謡においては、その特質からみて、
  1. 音楽
    • 旋法
    • 音階
    • リズム
    • 形式
    • 演奏形態(伴奏)
  2. 文芸
    • 内容
    • 詞型
    • 文体
  3. 民俗
    • 附帯目的
    • 場所
の各側面からの分類法が分類基準として考えられる。
 そして、民謡は、単に創作民謡の純音楽的な作品や純文芸的な作品にはみられない民俗的な附帯目的や場所を伴うものであるので、ここでは、民俗学者、柳田国男が『民間伝承』(昭和11年)に発表した民謡分類法を紹介する。
  1. 田唄(田打唄、田植唄、馬使い唄など)
  2. 庭唄(籾摺り唄、粉換唄、糸くり唄など)
  3. 山唄
  4. 海唄(網起し唄、舟唄など)
  5. 業唄(舟方節、土方節、石かち唄、木挽唄、酒造り唄、鉱掘唄、鋳物唄、炭焼唄など)
  6. 道唄(馬方唄、牛方唄、木遣り唄、道中唄、荷方節など)
  7. 祝唄
  8. 祭唄
  9. 遊唄(鳥追唄、盆踊り唄など)
  10. 童唄
の10種類である。
 この分類法は、民俗学的視野に基礎をおき、現存する民謡の実状に即しているところから最も一般化されているものである。
民謡の発生と伝承・伝播
 民謡は、発生の目的にふさわしい歌詞を伴い、メロディーとリズムの要素によって綴られた民衆の唄であり、いつもその時代、時代の人びとの共感を得、情緒に触れ、「音楽」となったものである。
 これらの民謡が現在、農漁山村に多く姿をとどめているのは江戸時代における芸術音楽の勃興、確立によるものである。
江戸時代における基層文化は都市と農漁山村に分裂し、民衆の音楽は都会における芸術音楽と農漁山村における民謡・わらべ唄に分かれることになった。
 都会に残った基層文化も社会の急速な変動により、歌謡の一種である祝詞のような神楽歌を追い出し、祭囃子に変えるのである。一方、農漁山村に伝承された基層文化も明治時代の産業の発達に伴い、変容し、労作と結びついた「仕事唄」の多くはその目的を失い、すぐれたものは「祝唄」や「酒宴唄」として姿を変えるのである。しかしながら、農漁山村における社会生活が変化している以上、従来のような民謡の発達や創造的活動はなく、保存的性格の強い伝承がなされるのである。このように、人びとの心から湧き出た民謡も、時代を経過し、流れゆく場所によって、最初の目的を変え、生活様式に応じて、歌詞を改め、曲調を変えていくのである。そこに、民謡の交流と変遷があり、発達があるのである。
 これは民俗芸能の一般的性格として重要な意味をもつ浮動現象である。この浮動現象は、おおよそ二つの方向、或いは見方としてとらえることができる。即ち、民俗学で「伝承」と呼ばれるものを空間的に縦と横、つまり、「伝承」と「伝播」に分ける考え方である。前者は、変化なしに、歴史的に受け継がれる場合である。後者は、郷土的環境の異なる他の地方へ移動する場合で、一般的には本来の性質と新しい風土に伴う異質な要素とが混入して新しい性質を生むような伝わり方を意味し、目的観を変えることが多い。
 民謡はこのような経過をたどりながら、口承による伝わり方を主とし、郷土の文化財として受け継がれてきたものである。また、受け継がれることなく消滅していくことも少なくはない。これらがどのような交流と変遷によって伝承・伝播されてきたかは多くの場合、その定説をもたない。
民謡の交流と変遷
 民謡の交流と変遷については、従来、歴史学的、民俗学的、文芸学的手法によって考察することが多かったが、これに音楽学的考察を加え、その解明に迫ろうとするものである。
 この音楽学的考察とは、小泉文夫の音階論とメルスマンやザックスの比較音楽的方法論に基軸をおいたものである。この手法の概略を述べると、民謡を形成している音階の中心となる核音が類似した二つの旋律でどのように重なり合うかを比較総譜を用いて調べることによって、その旋律の類似性を推察するものである。即ち、音階の核音や旋律の形成を比較することにより、民謡の系統性を推論するのである。
 この民謡研究の方法により、富山県には、「まだら」系統の唄が県下各地に分布していることがわかる。
 その唄は、「魚津まだら」、「布施谷節」、「岩瀬まだら」、「新湊めでた」(放生津まだら)、「福光めでた」、「長麦や」、「麦や節」、「早麦や」などである。
 富山県に分布する「まだら」は、九州地方に分布する「紀州まだら」(佐賀県)、「金のなる木」と「まだら節」(鹿児島県)、「五島列島まだら」(長崎県)、「諫早まだら」(長崎県)、「米搗(こめつき)まだら」と「下行まだら」(長崎県)、「豊崎まだら」(長崎県)、「対馬のまだらぶし」(長崎県)、「馬渡節」と「馬渡踊」(佐賀県)、「うぐいす」(佐賀県)、「伊万里まだら」(佐賀県)に端を発し、漁労関係者によって日本海を北上した。石川県にも伝えられ、「輪島まだら」、「七尾まだら」として現存している。また、「海士町まだら」が伝えられる海士町の漁労関係者の祖先は九州からの移住者であるといわれている。
 これらの唄が富山湾における漁港地の魚津、岩瀬、新湊にも伝わり、布施川を上り布施谷へ、庄川を上り福光、五箇山へと伝播し、前述の民謡となり、現在に残されているのである。
 ここに、唄の系統を研究するための比較総譜を「長麦や」、「早麦や」、「麦や節」を例として示すことにする。
 比較楽譜から、唄の類似性と系統性を考察してみるとき、音階、核音、終止、旋律などの点で関連性を保ちながら伝播し、推移していることがわかる。さらに、「長麦や」が「福光めでた」「新湊めでた」と関連をもち、それらが能登の「まだら」の影響を受けていることからも、「長麦や」が「まだら」の系統の唄であることは十分推論できるのである。
民謡の特性と今後の課題
 民謡が音楽の一素材として取り上げられたのは、平安時代の「催馬楽」から近くは「長唄」などの中にもみられる。しかし、歴史学、文芸学、民俗学的な研究は明治時代以後のことであり、特に音楽学的側面からの考察はごく最近のことである。
 さて、音楽学的側面から民謡の特性や研究の視点をとらえるならば、
  1. 発声に関すること
  2. リズムに関すること−拍節的リズム(八木節調)と無拍節的リズム(追分調)
  3. 旋律に関すること−反復と変化、メリスマと微小音程、こぶしと産み字
  4. 音階に関すること−陽音階と陰音階
  5. 拍子と間に関すること
  6. 速度に関すること
  7. 囃子詞と掛け声に関すること−意味のあることばと無意味なことば
  8. 曲想表現に関すること
  9. 歌詞に関すること−七五七五調(古代歌謡)と七七七五調(近世歌謡)
  10. 伴奏に関すること
  11. 舞踊に関すること
などをあげることができる。従来の民謡研究に加え、音楽学的調査研究と比較音楽論的研究を進めることによって、一層民謡の実態を明らかにすることができるであろう。
 いずれにしても、民謡の収集や分析的研究は複雑多岐であるが、昨今、わが国においても、文化財としての価値が認められてきているので、学問的内容を裏付けるためにも、研究のための組織や方法を確立し、歴史・文芸・民俗・芸能などとの接点で展開される民謡論を語りたいものである。
 そのことによって、日本人の心のふるさととしての民謡が保守的な伝承・伝播のみではなく、多くの人たちに愛される民謡として交流・変遷し、創造的な活動をふまえ、さらに発展していくことを期待している。
本稿は下記の文献を参考及び引用しまとめたものである。
 主要参考・引用文献
  • 日本民謡大観 中部篇(北陸地方)         日本放送協会編
  • 日本民謡全集 総論篇 関東・中部篇        雄山閣
  • 富山県の民謡             黒坂富治  北日本新聞社
  • 日本伝統音楽の研究          小泉文夫  音楽之友社
  • 日本民謡論              服部知治  新読書社
  • 日本の民謡              竹内 勉  日本放送出版協会
  • 民謡 その発生と変遷         竹内 勉  角川書店
  • 越中おわら・麦や節・こきりこ     各民謡保存会パンフレット  他
(なかむら よしろう・富山大学教授)
−平成13年1月20日放送−
※ 著者の役職名は、放送日現在のもので表示しています
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